
長年にわたり、エンタープライズGISの中核を支えてきたのが「同時使用(Concurrent Use)ライセンス」でした。
これは非常に柔軟な仕組みです。中央サーバーにライセンスプールを置き、必要な人が一時的にライセンスを取得して利用し、使い終わったら返却する。
このモデルにより、GIS管理者は実際の利用人数よりはるかに少ないライセンス数で、数百人規模のユーザーを支えることができていました。
しかし、その時代は確実に終わろうとしています。
Esriは 2026年3月1日 をもって、ArcGIS Proにおける同時使用ライセンスを正式に廃止します。
これは単なるバージョンアップや技術的変更ではありません。
空間データ基盤への「アクセス方法・コスト構造・管理の考え方」そのものが根本から変わるという意味を持ちます。
目次
- 大転換:プール管理から「人」管理へ
- 「3対1」エンタイトルメントを数字で考える
- ITインフラ全体への波及影響
- 2026年ロックアウトを回避する:ユーザー棚卸し
- 人の問題:注意すべき2つの落とし穴
- まとめ
大転換:プール管理から「人」管理へ
「Named User(指名ユーザー)」モデルでは、ソフトウェアの利用権はPCやライセンスプールではなく、個人のIDに紐づきます。
ArcGIS Proを起動するすべての人に、固有のアカウントとライセンス割当が必要になります。
この世界では、利用状況の考え方が完全に変わります。
- 同時使用時代:
- ピーク利用数
- アイドル時間
- ライセンス回収・再配分
- Named User時代:
- その人が使うか、使わないかの二択
月に5分しか使わない人であっても、「ArcGIS Proを使う可能性がある」なら 1ライセンスが必須 です。
アイドルかどうか、ピークかどうかは、もはや関係ありません。
「3対1」エンタイトルメントを数字で考える
移行をスムーズにするため、Esriは以下の標準ルールを提示しています。
同時使用ライセンス1本につき、Named Userライセンス3本を提供
ケーススタディ:同時使用100ライセンスの組織
想定:市役所、建設会社、エンジニアリング企業など
- 現状:
業界標準とされる 1:4の利用率 により、
同時使用100本で 約400人 の利用者を支えている - OpenLMによるハーベスティングを使っている場合:
アイドルセッションを自動回収することで
500〜600人 を支えているケースも珍しくない - 過剰ライセンスの可能性:
実際の最大利用は60本程度なのに、100本保有している組織も多い
👉 この移行は「現実に合わせて見直す」絶好の機会
しかし、ここに問題があります
- 100同時使用 → 300 Named User
- 実際の利用者:400人
👉 100人分のライセンスが足りません
これが、多くの組織が直面する「見えにくい危機」です。
ITインフラ全体への波及影響
コスト増は、ライセンス代だけでは終わりません。
同時使用からNamed Userへの移行は、IT全体に**静かな負荷(リソースドラッグ)**を生み出します。
- 高性能PC・GPU要件の増加
- クラウド利用に伴うクレジット消費の不確実性
これらの副次的コストは、場合によってはライセンス費用そのものを上回ります。
※
「GPU税」「クレジット経済」については、今後の記事で詳しく解説します。
2026年ロックアウトを回避する:ユーザー棚卸し
2026年に向けて最も重要なのは、
すべてのユーザーを正しい「User Type」に分類することです。
同時使用 → Named User の基本対応関係
- Concurrent Basic → Professional Basic(または Creator)
- Concurrent Standard → Professional Standard
- Concurrent Advanced → Professional Advanced
しかし、ここで立ち止まる必要があります。
本当に全員が高機能なProライセンスを必要としていますか?
適正化のためのUser Type整理
- Viewer
- 地図・ダッシュボード・レポートを見るだけ
- ArcGIS Proは使用不可
- 👉 最大のコスト削減ポイント
- Editor
- Web上で既存データを編集するだけ
- Mobile Worker
- Survey123 / Field Mapsなどの現場作業者
- Creator
- Webマップ作成、ArcGIS Pro Basic利用者
- Professional / Professional Plus
- 旧Standard / Advanced相当
- 高度分析を行う中核ユーザー
戦略例
100人の「閲覧だけユーザー」をViewerに移行できれば、
貴重なProfessionalライセンスを、本当に必要な分析担当者に回せます。
人の問題:注意すべき2つの落とし穴
技術よりも難しいのが、人の感情と組織文化です。
①「たまに使うだけ」でも欲しがる問題
「昔から使っているから」
「念のため必要だから」
Named User時代では、これは非常に高価な贅沢です。
Webベースへの移行を、明確に進める覚悟が必要です。
② ライセンス=地位という誤解
日本の組織では特に、
「ライセンスの種類=役職・格」と受け取られがちです。
Viewerへの移行を
「降格」「評価低下」と感じる人もいます。
👉 2026年移行は、技術管理+心理マネジメントのプロジェクトです。
まとめ
2026年3月1日は、延期のない期限です。
- 同時使用時代:キャパシティ管理
- Named User時代:アイデンティティ管理
2026年に向けたゴールは明確です。
「誰が、本当に、その機能を必要としているのか」を一人ずつ見極める
席を与える人、Webへ移す人。そのリストが完成していなければ、移行後に混乱が起きます。
ロックアウトは必ず来ます。準備できているかどうかが、すべてを分けます。
フリーバージョンダウンロードの後は?
ライセンスパーサー
紹介ビデオ
よくある質問
